ネタバレ『おおかみこどもの雨と雪』レビュー。

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打ち合わせ後に時間があったので、どさくさに紛れて、『おおかみこどもの雨と雪』を観てきました。
細田作品は、『サマーウォーズ』、『時をかける少女』の順番で観て、劇場で観た『サマーウォーズ』は

と大好きでして、先日のテレビ放送は忙しくて観なかったものの、2010年の初テレビ放映時はTwitterで実況しながら観まして、


というくらい細田さんにはホレこんでました。
できるだけ事前情報は入れずに、観てきたのですが。。。。
さて、ネタバレしまくりなので、ネタバレが嫌な方はここから先は見ないでください。。。。

かなりシナリオがシンプル

細田作品の魅力って練られたシナリオだと思ってたので、シンプルすぎて驚いた。
『時をかける少女』はタイムリープの話だから、当然シナリオはリープを繰り返して楽しめる内容にならなければいけない。『サマーウォーズ』は大家族ものかつSNSを扱っており、どうやってあれだけの人数と仮想世界であるOZの世界で描くかというのを、うまくやってのけた。先日放映されたテレビ版ではまるごとカットされている高校野球とのシンクロは、「離れていても一緒に闘っている」という「つながり」を示すあの映画の醍醐味でもある。

が、「おおかみこどもの雨と雪」は非常にシンプルだ。

花とおおかみおとこ出会う→出産→おおかみおとこの死→子育ての苦労→田舎へ引越→畑仕事を通じた交流→雨、野生への目覚め→雪と雨の学校生活→雪、草平とのケンカ、正体を現してしまう→嵐で雨が行方不明、花、必死で探す→学校に取り残された雪、草平と仲直り、正体を告白→雨、野生に帰る→雪、全寮制の中学へ

もうちょっと丁寧に文章化すれば、

花が大学で知り合ったモグリの学生は、おおかみおとこでした。おおかみおとことのこども2児ができたら旦那が死んでしまったので、三人は人目を気にせずに子育てできる田舎に引っ越しました。
当初は人とのふれあいをさけて自活しようと思っていましたが、田舎への憧れではなくきちんと根をおろして生きていこうとする花の姿に、周囲の人達は花に協力的になり、打ち解けていきました。
幼い頃は姉の雪の方が野生的で、雨は引っ込み思案でしたが、学校に入ると、雪は友達との間で自分を見つめ直し、じょじょに女の子らしさを身につけていきました。が、転校生の草平に「けもの臭い」と言われた雪は、彼にケガをさせてしまいます。弟の雨は学校に馴染めず、山の主である「先生」の元で山の行き方を学んでいきます。
最終的に雪は人として生きていくことにして、全寮制の中学に入学、弟はおおかみとして自然に帰りました。

まあまとめるのは簡単なんだけど、これが2時間。ぶっちゃけ1時間でもよかったんじゃなかろうか。
映画館を出た後、思わず「脚本誰だよ」とパンフを確認してしまったんだけど、ウィキペディアで「細田は本作で初めて自ら脚本も手がける。」と書いてあって、非常に納得。『時をかける少女』と『サマーウォーズ』の脚本である奥寺佐渡子さんも関わってるけど、うん、(以下自粛)。てか奥寺さんて『八日目の蝉』に、『とある飛行士への追憶』、何より『薔薇の殺意』(中井英夫『虚無への供物』のドラマ化)の脚本もやってるのか!!!(*´∀`)

冗長、かつ事件がなく結末に予想がつく

余談はさておき、始まってから20分くらいはおおかみおとことの出会いから出産、おおかみおとこの死と、最初の山場に行くまで丹念に描かれていると言えば聞こえがいいが、淡々としていて非常に長い。
「俺、何の映画観に来たんだっけ?」と正直思ってしまった。映像が綺麗で、それは楽しいんだけどね。

二人が産まれてからは雪と雨がかわいらしく、多少メリハリが出て来て楽しくなる。「おおかみこども」という人であり、おおかみでもある子育ての苦労として、雪が乾燥剤を間違えて食べた時に、道を挟んで右側にある動物病院へ行くべきか左側にある小児科に行くべきか花が悩むなど、切実だがユーモラスも場面もある。また、ネグレクトを疑われて児童相談所の視察が入りそうになるなど(その奥ではおおかみ姿の二人が寝ている)、痛ましくもスリリングな場面もある。

が、見せ場としての事件らしい事件は、おおかみおとこの死、雨の溺死危機、雪と草平のケンカ、最後の嵐くらいか。。。

三人の暮らす家の前の道が右は山、左は学校と別れていて、雪が左、雨が右へよく行く時点で、雪が「人間」になり雨が「おおかみ」としての生き方を選ぶのは映像としても示されてる。また、家の中でも何かあれば駆け回ったり、蛇を捕まえたりとワイルドだった雪が女の子らしさを身につけていくのと対象に、絵本でおおかみが悪者として描かれるのに傷つくほど繊細な雨が、おおかみの姿になり山を駆け巡るようになる対比を見れば、「こりゃ二人の生き方が人とおおかみで別れるな」というのは誰でもわかる。
そもそも、それより前に豪雨の中でのおおかみおとこがおおかみの姿で死んでいるのは、「雨-男-死(別れ)」と、嵐の中での(弟の)雨の野生への帰還を暗示している。
そしてそのまんま。話の振れ幅がないから、意外性のカケラもない。

三人が雪山を駆けるシーンなど映像のダイナミズムはあるのだが、シナリオのダイナミズムがない。
子育て「物語」ではなく、子育て「記」だ。かといってドキュメンタリーのようなリアリズムの楽しさがあるわけでもない。
ドラマがないのだ。カタルシスがない。

雪のシナリオは悪くないのだが、雨は自滅してるだけだ。
もともと引っ込み思案で、学校に馴染めない。山に先生を見つける。先生が死に、おおかみとしてに帰る。直線で繋がっている。おおかみとして生きるのか、人間として生きるのかの葛藤がない。自分が行きやすい道を障害物を避けながら生きている。
花も最初だけ逆ナンするアクティブさを見せるが、あとは嫌なことから避けて生きやすい生き方を選んでいる。韮崎とのエピソードも、韮崎を通じて結果的に他の住民とも仲良くなって行くが、いわばなりゆきに任せているだけだ。意図的なのか偶然か、花と雨は似た生き方になっている。
それに較べて雪は花が作ってくれたワンピースの力を借りつつも自ら「女の子らしさ」を取得していくし、草平とのケンカ後ひきこもるも、 草平の助力もあり学校へと戻っていく。最後には全寮制の中学校へ行くなど、小学六年生にして親から独立して生きていく気力が満々である。雨はメンター的な先生の後を継ぐわけだが、空席ができたからそこへ行くわけで、先生が死ななかったら、彼は「逃げる」形で自然に帰ることになってしまう(この「逃げる」というのがすでに人間側からの視点でおおかみ側の視点ではないのだが)。

もしかしたら、雪と雨とわけてしまったのが失敗だったのかもしれない。
雪ひとりだけで、草平とのほのかな恋と、自分に流れる血の間での葛藤をもっと濃密に描いていれば、雪に感情移入しやすくなり、その上での雪の選択にカタルシスも得られただろう。

パンフレットを見ると花役の宮崎あおいが、「彼女(引用注:花)は自分がない人なんだろうね」と監督と話したというインタビューが載っている。「それは悪い意味ではなくて、相手のすべてをそのまま受け入れられること」と思ったといってるが、まさにそれなのだ。観客もそのまま受け入れて「ああそうなんだね」で終わって、心を突き動かされるものがない。なんだろう、この空虚さは。
よく言えば王道、悪く言えばありきたりな話。田舎礼賛ほのぼのケモナーアニメが、『おおかみこどもの雨と雪』だった。

他に気になった所

細かい部分を見ると、何度かおおかみおとこの免許証がアップになるシーンがあるのだが、おおかみおとこの生年月日が昭和54年で、免許の有効期限が平成21年だから、21世紀の話なのに、ケータイ、スマホどころかネットもテレビも出ない。そりゃ貧乏暮らしだとしても、それはさすがにおかしいんじゃないだろか。ラストの嵐のシーンで花は雪の電話の一本くらい入れろと思わなくもない(雨が行方不明になって動転した・思ったより探すハメになったというのはあるだろうが、少しは雪の心配もしなはれ)。
百歩譲ってケータイなどは電波が通じないし維持費が高いから持たないとしても、テレビかネット環境のどちらかはあってもいいだろう。花が勉強するシーンで本だけに頼るのは不自然だ。・・・が、嵐の前も古いラジオが流れていたのを思い返すと、おそらく意図的にネット環境もテレビも持ってないので「貧乏って嫌ですね」という結論になる(ヽ´ω`)
学生時代の描写にしても、花は母子家庭で奨学金を得つつも、バイトを掛け持ちするような苦学生だから、花の本棚が古い本ばかり・・・にしても、時代設定がわかりづらかった。
あと花は父親を亡くしてるだけなのに、母親がいっさい話に出てこないのもちょっと不自然。孫の相談もできないとは、よっぽど仲が悪かったんだろうか。
畑仕事などをしてるのに、花の肌の色が変わらないのもどうかと。書き分けが難しい だろうが、最後のシーンも花が女子高生みたいな若々しさで、13年後の姿には見えなかった。

 

とまあここまでグチっぽく書きましたが、それなりにうるっときたシーンはありましたよ。
嵐の中、おおかみおとこの死体がゴミ収集車に収容されるとか、もう酷いじゃないですか。しかし国分寺あたり(おおかみおとこの免許参照)は雉なんか獲れるんの?
どんなときでも笑顔をモットーにしている(居酒屋みたいだなぁ)花が、雨が死にかけて泣くシーンとか、雪が車の中で泣くシーンとか、嵐の中での雪の告白とか。あのカーテンのはためきはいいですね。三度目で人の形に戻るんだけど、あれが人として生きてく決意を表してるんでしょう。

あと実は『名探偵ホームズ』や『宇宙船サジタリウス』が大・大・大好きな隠れケモナーなので、二人のケモノシーンには結構満足しました。幼少期は人間タイプの雨の方がかわいかったけど、少女雪がめさんこかわいいし(*´∀`)
声優さんも非常にいい仕事してました。シナリオはアレだけど、演技にはかなり入り込めた。
映像としてはダイナミックなシーンが多くて、特に水の描写が綺麗なので、映画館やできるだけ大画面で観た方が楽しめます。

最初は『時をかける少女』・『サマーウォーズ』人気で延びてるみたいだけど、最終的に興業としてはどうなるんでしょう。作品の評価も、DVDなどの売上、テレビ放映時の視聴率も気になります。
ちょっとのっぺりした話だけど、無難にうるっと来る映画が観たい方にはいいと思います(とネタバレレビューで書くのもどうかと思うが)。



 

 

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ネタバレ『おおかみこどもの雨と雪』レビュー。” への5件のフィードバック

  1. 淡々としてるだけあって万人のマザコン心をくすぐるのには成功しそうな映画じゃないかと思いますけどね。苦労を知らない人には退屈なのかな?まあちょっと花は人間味に欠けますが。「彼」を2度失ってなお壊れないんですからね。超人です。監督は両親を幼くして亡くされたそうなので、彼の無意識にはユングの言う太母みたいなイメージが綺麗に残ってるのかもしれませんね。(それが意外とありそうで無かった!ドストライクな自分!)あと音楽には突っ込まねばいけません。高木さんのお仕事ですから当然良いわけですが、あれだけ浮世離れした活動をしていながら、ちゃんと戻って来て商業映画にも対応できるあたりは改めて尊敬。彼の抜擢にも賛辞を禁じ得ません。また技術面についてですが、細田さんは否定なさってるようですが、其処彼処にジブリリスペクトが見受けられますよね。森の生き物はもののけそっくりだし、草平なんて現代版カンタじゃないですか。宮崎駿がいなかったら今の彼の才能は無いと思ってるんですが、細田流・視点固定カット多用からの魅せたいときだけしっかり動くスタイルは、デジタルワールドを離れた今作で遂に真価を発揮しましたね。本当の意味で天才だ~と思わされて正直悔しかったです。「所詮デジモンでしょ」と思いつつ彼の作品を見続けて来た前科をもみ消したくなりました。ネコ耳=オタク趣味と十把一絡げをやってのける本当に薄っぺらい次元でしか映画を見ない前田氏のかんそうぶんなんかはさて置き(笑)、マザコン認定済みの富野さんなんかも絶賛してることからやはり、花を見て自らの母を想うのが、この映画の醍醐味なんじゃなかろうかと思います。公式では育児アニメってな事をのたまってますが、実際に子供を育て上げた人からの共感を得るのは難しいでしょう。超人ですから。そう思って見るとダイナミズムは不必要かなとか、「彼」との生活はむしろもっと尺がないと悲劇性が際立たないかなとも感じられませんでしょうか。長文失礼しました。自分でブログやれやって話ですよね。この映画にやられちゃった人間としては少し悔しかったのでつい。かく言うわたしもマザコンでね(キリッ

  2. 辻褄のあわなさやリアリティのない部分は、サマーウォーズも酷いものがありますからね。。。(OZが権限持ちすぎてる)
    良くも悪くも、「アニメ(=フィクション要素が強い)」としてスルーした方が楽しめると思います。

    なるほど、論点がわかりました。
    そこまで記憶力に自信があるわけではないのですが、
    たしか最後は雪の独白で、「私は全寮制の中学へ・・・」と言っていた気がします。
    それとも花の独白でしたでしょうか。それこそ記憶が曖昧なところではありますが。

    テレビ版かDVDの発売を待つのが一番間違いなさそうですねw

  3. 早々のお返事、ありがとうございます。

    そうですね。
    現実的には辻褄の合わない部分が多い映画なので、あまりシビアに考えるのはお門違いなんでしょう。
    この辻褄に合わなさを華麗にスルーすることにより、「おおかみこども」は私にとって、とても大切な作品となっています。

    さて、寮の件ですが…
    私が申し上げたいのは、「全寮制」では無い…ということだけなんです。
    映画の中にも、「寮」という言葉は出てきましたが「全寮制」と出てきたのかどうか…? 
    私の記憶にはありません。

    ですから「全寮制」の学校では無いけれど「寮」には入っているという解釈です。
    「雪は寮に入った」というような言葉は、確かにありましたしね。

    学区内にもかかわらず、家が遠すぎて、交通事情が悪すぎて通えない…そんな生徒だけがいるであろう「寮」。
    場合によっては「○○寮」などと呼ばれる民間の賄いつきの下宿。
    とにかく、親元を離れての集団生活をしていることは間違いが無いわけですよね。

    この映画についての感想をUPしている多くの皆さんが「全寮制」と解釈しているのがとても不思議なのです。
    どうしてなんでしょうね?

  4. nyanさん、コメントありがとうございます。
    「おおかみこども 全寮制」でググると普通に出てきますし、
    2ちゃんのスレをざっと見ても、寮へ行くという記述に対して、
    「それは違う」というレスはありませんでした。

    学費に関しては奨学金をつかったのかもしれませんが、
    ざっと調べた所、中学から奨学金はそうそうないようですね。

    そもそも花自身が奨学金をどうやって返したのかというのがありますし、
    おおかみおとこの貯金だけで数年暮らしてるような映画なので、
    この映画の経済的リアリティはなんともいえません。

  5. 雪が進学した中学は全寮制ではありません。
    大体、今の日本では全寮制の中学校なんて私立にしか無く、法外な学費、寮費がかかります。
    花にも、あの地域の一般の家庭にもそのような経済力は無いでしょう。
    普通の、自宅からの通学生がスタンダードの、公立の中学校です。
    公立中学校なら、通学時間がかかりすぎて日々、大変すぎる、極少数の生徒のための安価な寮があるのはありえます。
    草平君も含め、あの地域の生徒の多くは入寮しないと中学校で学べないのでしょう。
    学校がそのような寮を用意できない場合は、民間の下宿屋さんを利用することもありますが。

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