コミュニケーションの痕跡としてのWebサイト、あるいはいかにして無茶ぶりする客さんを説得するか

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「成果物」なんてよく言われますけど、当然のことながら、webサイトって制作した結果です。
お客さんからヒアリングして、企画を練って、ゴールを決めて、ライティングして、撮影して、デザインして、コーディングして、必要ならシステム組み込んで、初めて出来あがる。
「成果物」というと、「作業」としての結果というニュアンスを感じるのですが、どれだけお客さんと話をして、それをwebサイトという形に落としこんだかという、コミュニケーションの結果でもあるのではないでしょうか。

伝言ゲームは情報の質が低下する

たとえばわかりやすく、デザインだけに話を絞ってみましょう。
最初の打ち合わせはデザイナーも同席することがありますが、その後はディレクターを介してデザイナーに指示がいくわけで、「お客さん→ディレクター→デザイナー」という順番で、伝言ゲームがあるわけです。
まずお客さんの要望を、ディレクターがうまく汲み取る必要があります。その上で、ディレクターがデザイナーにその要望を伝えて、デザイナーはディレクターの指示をうまく汲み取る必要があります。いわば、ディレクターの解釈の上に、さらにデザイナーの解釈が重なるわけで、それがお客さんの意図とマッチしているというのは、実はなかなか難しい事なのではないでしょうか(もちろんそれをうまくやるのが、ディレクター、デザイナーお互いの力量なのですが)。

うろ覚えなので申し訳ないのですが。
日本語と英語が使える人がいて、英語とドイツ語を使える人がいる。でも日本語とドイツ語を使える人がいない。そんな場合、日本語を英語にして、その英語をドイツ語にすれば、日・独間で話ができるように思えます。ですが、母国語が異なる人が多数集まる国連のような場所では、日本語を英語にし、その英語をドイツ語するという風に、二重に通訳することはないそうです。

日本語からドイツ語にしたければ、直接ドイツ語にし、ドイツ語から日本語にしたければ、直接日本語にする。
日本語での情報量・正確さが100%なら、英語への通訳によって8割になり、さらにその英語をドイツ語に訳すことで8割、0.8×0.8=0.64と非常に不正確な内容になってしまうそうです(数字とかてきとーっすよ、念のため!)。

何故そうしたいのか。

同じ会社内のディレクターとデザイナーなら、まだお互い話が早いかもしれませんが、web制作に関してあまり知識のない営業さんや、代理店が入ってくるとどうでしょうか。
先ほどの式だと、「0.8× 0.8=0.64」となりますが、不正確な人が入ることで、より内容の質が落ちてしまいます。かといって、お客さんからのメールをそのまま転送されても、いまいち意図や意味がわからない。そんな経験がある方も多いのではないでしょうか。そうなると、こちら(デザイナー側)から不明分を補うために、あれこれ質問をする必要が出てきます。最初に制作するデザイン自体へのヒアリングもそうですが、そういった制作中のヒアリングもデザイナーに求められるコミュニケーション能力のひとつです。

僕は直案件なら基本的に直接お客さんとやりとりをして制作をしているので、ディレ・デザを兼任している形になります。なので、お客さんが「ん?」と思うような要望を出してきたときには、「なぜそうしたいのか」を確認できますが、代理店などがディレクターとしてはいると、確認しづらいことが多々あります。
「TOPの画像を違う写真に変えてください」という指示がきても、「イメージと違う」というのは当然わかりますが、「どんな画像に変えればいいのか」という方向性、今の画像の何が悪かったのかという点を確認しておかないと、また似たような画像を選んでしまって、修正が重なる可能性があります。単純にこちらが手間だとかいう話ではなく、お客さんからすると「自分の話が通じない」と不満が出てくるでしょう。
そういう場合、 指示を出す側が、お客さんに目的を確認しておいてもらえると、作業をする側はその目的に沿った成果物を出しやすくなります。

お客さんがその要望を出したのには、理由があります。
ディレクターがその指示を出したのには、理由があります。
デザイナーがそのデザインにしたのには、理由があります。
(いずれも残念ながら直感だったり、なんとなくだったり、ただの私的な好みの場合も多々ありますが)

「それくらい常識だろう」「言わなくてもわかるだろう」「どうしてわからないの?」と思っていても、話が進みません。三者三様の理由や目的があって、指示の、デザインの背景に目的があって、それを言葉として伝えなければ、理解してもらえてるかの確認ができないのではないでしょうか。ヘタしたら言葉だってどれだけ伝わっているかわかりません。

同じ「美人女優」でも思い浮かべる人は違う

たとえば、「美人女優といえば誰?」 聞かれた時に、誰を思い浮かべますか?
最近のイチオシとしては、映画『告白』や『貞子3D』の貞子役、『Another アナザー』などに出ている橋本愛なのですが、 「誰それ?」ってなったら、もうそこで話が通じません(笑)。
「吉高由里子!」って人もいるでしょうし、年配の方なら「吉永小百合」が出てくるでしょうし、「上戸彩!」と言われると「え、女優ってかアイドルじゃね?」となるかもしれません。
ひとつの言葉でも、受取手によって想起される内容は当然違ってきます。
おなじ「女性らしい、かわいいテイスト」 でも、子どもっぽいかわいさなのか、少女っぽいかわいさなのか、「大人かわいい」なのかで、似ているようで違ってきます(余談ですが、先日の打ち合わせで「大人かわいい」を「とっつぁんぼうやだね」と言い放ったお客さんのセンスには脱帽しました)。

「わからない」ことを前提に始める

コミュニケーションの本質は、「わからない」ことです。「相手が自分の考えをわからない」ことを出発点に置かなければ、「話にならない」のです。
「話せばわかる」のではなくて、「話したからわかる」「話さなければわからない」のです。

デザインでもそうですが、特にユーザビリティに関わることであれば、もっと致命的になります。同等レベルの経験やノウハウがあるディレ・デザ間はまだいいでしょうが(お互いプロとしての方向性の違いがあると厄介ですが)、ディレクターは、自分の好みや主観に基づく要望を出してくるお客さんに対しては、場合によっては説得したり、誘導する必要があります。説得しきれないと、webのセオリーから外れたものが出来あがってしまい、エンドユーザーが使いづらいサイトにフラストレーションを覚えてタブを閉じてしまうでしょう。

担当の方が社長さんなんかだと、「俺のパソコンではこう見えるからダメ!」などと言い出す方もまれにいます。とにかくなんでもかんでも「目立たせたい」「あれも大事これも大事」と優先順位を決められない方もいます。その要望を丸呑みして反映させてしまったサイトは、はたしてユーザーにとって使いやすいものでしょうか。そのサイトは、制作時の目的を達成できるのでしょうか。

そこまで滞りなく進む案件の方が多いとは思いますが、修正が重なったり、仕様がブレてきたりする案件もどうしても出てきます。
事前にベンチマークになるサイトをいくつかピックアップしておいて、お互いの意見が食い違ったら、そのサイトではどうやっているのかを確認するのも、手でしょう(その際こちらが誘導しやすいサイトを選んでおくと、話が速くなるでしょう)。

お客さんのためではなく、ユーザーのために、もっといえば目的のために、「言われた通りにやればいい」ではなく、「何故そうしたいのか」「何故そうする必要があるのか」を常に考え、必要があればお互いの意思疎通を計り、具体的に落としこみながら、web制作を進めていきたいものです。

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