『竜とそばかすの姫』ネタバレレビュー

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公開当時、賛否両論だった『竜とそばかすの姫』が金曜ロードショーでやったので観た。以下、ネタバレ。

酒飲みながらみたせいもあるかもしれないが、途中まではけっこう涙ぐむ場面が多かった。
過去の細田作品でいえば『おおかみこどもの雨と雪』も人生ハードモードではあるんだけど、竜そばは主人公の母親が他の子を助けようとして死ぬという過去があり、すずの嘔吐シーンがあったり、「え、こんな重い話なの?」と驚きつつも、すずの不遇さにわりと感情移入しつつ観ていた。

何より中村佳穂は声も歌も素晴らしかった。声優初挑戦で、いい意味ですずの不安定とマッチしていた。歌声も力強くも切なく、「私のために歌ってくれてるような気がする」という主旨のセリフが劇中にもあるが、よりそってくれている感があった。こういう経験は初めてだ。

しかしそのベルのコンサートに、いきなり乱入して(これもU内のイベントでのセキュリティとかどうなってるの? わりと現実に近いレベルの世界だと思うので、警備員役の人とかいてよさそうなもんだが)、しかもコンサートを邪魔された竜をベルがいきなり「あたなは誰?」とか言ったり、追い求めたりするのは正直「なんで?」というのはあった。自分と同じ孤独を見た・直感したというのであれば、納得がいかなくもない。が、それらしい描写はなかったと思う。

VR・SNSの世界+美女と野獣+機能不全家族という三本柱を上手くまとめようとしたものの、一番肝心な機能不全家族というリアルな問題に対して、リアルな解決を提示できなかったのが、致命的にカタルシスを削ぐ作品となってしまった。

母親を失い、好きだった音楽とくに歌うこともできなくなり、周囲ともコミュニケーションがとれなくなったすずが、Uの世界で歌声を取り戻し、一夜にして大スターになる。昨今のVTuberのようだ。その上で、すず同様に、現実世界では機能不全家族に陥っている竜と出会い、交流し、ベルという仮面を脱いで自分の殻を破って、竜との現実世界でのアクセスを試みるという第一ステップまではいい。ここまでは本当に感動した。『サマーウォーズ』が一番だと思ってたが、この時点で竜そばがナンバーワンになった。

が、第二ステップとして竜を現実世界で見つける後半30分くらいの御都合主義の嵐は、なるほど批判されざるを得ない。竜が現実に住んでいるマンションをカミシンのおかげで見つけるあたりまでは、遠征が云々という伏線もあったし、まあ「アニメだから(≒多少のご都合主義は)」いいとしよう。しかしすず一人で東京に行かせる所はアニメだろうと、まったく理解できない。登校時さえカバンを持って行くのに、なんなら手ぶらだ。

しかも女性とはいえ、合唱隊の人らが五人もいるのに、誰一人大人がついて行かない。女子高生が単身、児童虐待の現場に殴り込みに行って、何になるのか。しかし何故か気合いでなんとかなって(これが比喩じゃないから恐ろしい)、地元に帰った後、すず自身も父親とコミュニケーションがとれるようになって幕が下りるが、中村佳穂の歌声の感動の余韻とともに、モヤモヤした気持ちが少し残った。

『未来のミライ』は4歳のくんちゃんが主人公で、主人公の人格を感じられないせいかまったく感情移入ができず、ここまで主人公に感情移入できないことがありえるんだと、初めての体験にある意味感動したのだが、『竜とそばかすの姫』は少女時代に母を眼の前で失うというトラウマと、母親同様に「自らの存在を賭して誰かを助ける」ことで、トラウマから救済されるというテーマには、強く感情移入して、心を揺さぶられた。『思い出のマーニー』もそうだが、不遇な少女が救われる話が好きなのかもしれない。内容はほぼ覚えていないが、子供の頃『小公女セーラ』が好きだったので、その影響もあるのだろうか。

『おおかみこどもの雨と雪』もシングルマザーがいきなり田舎暮らしすりゃ解決すんのかよとか、『未来のミライ』も、小さな子供がいるのに、「あんな階段まみれの家を建てるか?」というレベルの話から批判が出た。『バケモノの子』も、それまでは面白く観ていたのに、後半突然話がぶつ切りになるように九太が現実世界に戻りたがり、ついて行けなくなった。シナリオの説明不足もだが、(未来〜は社会問題はなかったと思ったが)社会問題を扱うのに、リアリティがないというか、「それはさすがにおかしくない?」というレベルのシナリオで興行的に成功してしまうのは、細田守自身にとっても映画界にとっても、良いことなのだろうかと考えてしまう。魅力的ではあるが、奇妙な監督だ。

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