金曜ロードショーの『進撃のアリエッティ』の波に乗って、『思い出のマーニー』、観てきました。 昨年の夏、『風立ちぬ』で「宮崎駿の最高傑作だ!」と猛烈に感激したのですが、マーニーも負けず劣らずというか、世界の宮崎駿引退作品!っつー究極の宣伝文句のある『風立ちぬ』にも、内実ともに引けを取らない大傑作でした。 謎の洋館、美少女、百合っぽさとかに萌え萌えでいったんですが、いやーもーそういうのとっぱらっても大傑作。
同じ米林監督の『借りぐらしのアリエッティ』は普通に面白くて、80点くらいなんすけど、マーニーはもう万々歳、100点満点です!!! うちの親なんかは「『風立ちぬ』はストーリーが面白くない」とか言ってましたが、そんな親でもマーニーは十二分に楽しめるだろうし、クリエイターのロマンを熱く語った『風立ちぬ』よりも、『思い出のマーニー』の方が普遍的なテーマを扱っていて、朽ちた洋館に住む美少女という幻想小説的なベースがありつつ「マーニーは何者か?」というミステリ的な楽しみ方ができ、トリックのためのトリックになっていないそのカタルシスも素晴らしいので、正直マーニーの方が興行成績よくてもおかしくないと思ってます。
できるだけネタバレしないようにといいつつ、一つだけ公式サイトのイントロダクションにもないことを言うと、物語の序盤ですぐわかりますが、主人公の杏奈は幼い頃に両親を亡くしたため、もらいっ子=養子なのです。そのため、育ての親のことを「おばちゃん」といって、距離を作っています。 そんな杏奈は持病のぜんそくの療養のため、海辺の田舎町へ行き、そこでマーニーという少女と出会います。
物語の軸はマーニーとの友情と、マーニーはいったい何者なのかというマーニーに纏わる部分と、杏奈の人間的成長があります。そして裏テーマとして家族愛。 杏奈は養母の元で愛されながらも育ちますが、体が弱かったりとある秘密により鬱屈した所があるため、クラスでも浮いた存在になってしまっています。療養先でも相手の好意を鬱陶しく感じてしまい、うまく溶け込めずに、地元の年上の女の子相手に自らトラブルを起こすなど、ジブリの少女としては非常に屈折しています。
そんな杏奈が無条件で心を許したのがマーニー。勝ち気でいたずら好きでありながらも神秘的なマーニーですが、実はそんなマーニーも、必ずしも幸せというわけではなく。。。 不安定な杏奈と活発なマーニーの対照的な魅力もですが、会う度に三つの秘密を教えあうとか、ボートの上でしかもランプを持ってクッキーとジュースを楽しむピクニックとか、パーティーの花売りの少女ごっことか、なんかこうマーニーごっこがしたくなるようなすごい童心をくすぐってくるシーンが多いのが印象的でした。 けっこう伏線や細かい描写もしっかりしています。杏奈が療養先の親戚の家で、独立した娘が使っていた部屋を自分の部屋として使うのですが、机に荷物を置くシーンで、机にネコのカップルの落書きがしてあるものの、それに気づかないように荷物を置きます。これって恋愛的なものを否定してるシーンで、本作においては象徴的だなあと。 あと杏奈の名前や目の秘密だったり、○○の描写がなくなっていくとこだったり、二度見しても充分見応えがありそうです。 後半、彩香という少女が出て来てから、物語の謎が深まるのですが、ここからが真骨頂。マーニーの謎は、正直丁寧に描かれすぎていたため、明確になる以前に「こうだろな」とわかったのですが、それでもこういうことだったのか!というカタルシスがハンパなかったです。すんごい後味の良い、さわやかな映画です。
エンディングのプリシラ・アーン「Fine On The Outside」も、声が反則的に綺麗すぎて、映画館で流れたら泣くかなーと思ってたのですが、泣きに落としにかかるのではなく、物語の余韻をハンモックのようにすごい優しく受け止めてくれて気持ちよかったです。これって実はすごいテーマにあっていて、奇跡のカップリングだと思います。でも和訳を見たら歌詞も凄い世界観にあってるので、英語わかる人が聴いたら泣けそうです。 マーニーが「今まで会ったどの女の子よりもあなたが好き」というのに対して、杏奈が「私もマーニーのことが一番好きだよ。今まであった誰よりも……」という名場面があるのですが、これもあとで「そういうことか」と納得がいきます。なにより「あなたのことが大すき。」というコピー、ただの百合百合ど直球なコピーかと思いきや、見終わってからこのコピーを見ると。。。「ああそういうことだったのか!!!」と感涙を禁じ得ません。 『思い出のマーニー』は、愛が引き起こしたひと夏の優しい奇跡なのです。
それまでは『紅の豚』がジブリでは大好きだったのですが、『風立ちぬ』が頭抜けて大傑作だと思っていたら、『思い出のマーニー』はまた別次元でジブリで大好きな作品になりました。ちょっと比べようがない同率一位とでもいうか。 杏奈の複雑な家庭環境だったり、ダブルヒロインによる同性愛っぽさだったり、かなりテーマ的にジブリとは思えないほどアグレッシブですし、何より「宮崎監督引退後、ジブリはどうなる!?」という試金石となった『思い出のマーニー』ですが、そういったセンセーショナルな部分を余裕で制する程、「宮崎駿が引退してもジブリには米林宏昌がいる!!米林監督がいればジブリはあと50年は大丈夫!」と声を大にして言える大傑作でした。 とにかくネタバレしないうちに観に行った方が良いです!!!