竹熊健太郎『フリーランス、40歳の壁。』レビュー。時代と人脈の波を掴んで、どう壁を乗り越えるか。

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独立して11年目、今年で39歳になってしまうアラフォーのweb系フリーランスとしては、大変気になる本が出たので、速攻で買いました。
竹熊健太郎『フリーランス、40歳の壁。』です。

目次

序章
第1章 フリーランス・40歳の壁。
第2章 とみさわ昭仁 「好き」を貫く代償。
第3章 杉森昌武 フリーランスとは自分で選択する生き方のこと。
第4章 「50代の壁」はさらに高い。
第5章 田中圭一 サラリーマンとマンガ家を両立させる男。
第6章 『電脳マヴォ』と私の未来。
第7章 FROGMAN アニメ化委の革命児が直面した「30歳の壁」。
第8章 築地響一 還暦を迎えても奔放なフリー人生。
第9章 フリーランスの上がりとしての創業社長。

本書はTogetterの自由業の40歳の壁が出発点となり、発展したものです。本書では惜しくも掲載されなかった会社を辞めてアニメ研究家になった理由――氷川竜介の場合。【前編】フリーは「仕事」こそが最強の営業である――氷川竜介の場合。【後編】も話題になっていますので、是非読みましょう。
インタビュー以外は、竹熊氏の自分語りです。言い方を変えれば、竹熊氏自身の「インタビュー」が、他の方のインタビューの合間合間に入っている構成です。

どんな人向けか

序章で『自由業者は「なるべくして、なってしまう」ものなのです。「否応なく、そうならざるを得ない」ものなのです。』とあり、後半で著者が軽度発達障害の診断が下され、発達障害を持つ人は起業を考えたらどうかと結ばれている本書は、そういうとんがった人には「やっぱりそうか、よっしゃ、やったるぜ!」と燃える部分があると思います。

また『同世代の自由業者に総じて言えるのは、「時代に恵まれた」ということです。』と明言しているように、80年代にサブカル系ライターとしてフリーランスになってる人らは、チートといいますか、めっさ時代に乗った人たちなので、その辺は差し引いて考えた方がいいかとは思います。とはいえ、そういう僕自身も10年代のweb系フリーランスの波に乗っているわけで、そう考えると相殺できるのかなぁと。後述するように、やはり「時代の波に乗る」のは非常に大事です。

最近の多様な働き方の在り方であったり、副業解禁の流れ的な意味での「フリーランスの生き方」とは別なので、そういう背景で読んでいくと、肩すかしをくらうかもしれません。

また当然のように、「ああ、あれ作った(書いた)人ね」とすぐわかる有名な方ばかりがインタビューを受けているので、そういう知名度のある仕事をしていないフリーランスはどうなんねん!的なのはあります(ヒガミと言われればそれまですが)。他のフリーランスの本でもそうなのですが、どうしても極端な例ばかりになり、生存バイアスが強くなってしまう嫌いはあります。

web業界はブログやセミナーの講師、技術書を書いて名前が知られている人が多いと思いますが、ライターより裏方の仕事になり、複数人での制作になるため、「○○のサイトを作った誰それさん」というのがそこまでフィーチャーされにくい気がします。その辺もあり、web系フリーランスとしては、もやっとする部分があります。

竹熊氏が

わたしから見て「技術的には上手だが、なにがおもしろいかさっぱりわからない作品を書くプロ作家」がそれなりの数、いることは確かなのです。(略)「作家としては凡庸、プロの才能は百点満点」と考えています。(192p)

と言及してるような、『目立つ実績はないけど、それなりに力量があって食っていけてる「プロの才能が百点満点」のフリーランスの在り方』も読みたかったのですが、それは本書のテーマとは違ってきてしまうでしょう。ただ、様々なフリーランスの方が出ているので、刺激になるのは間違いないです。

フリーランスの仕事がなくなるとき

いったん本書の内容から離れて、そもそも年齢に関わりなく、フリーランスの仕事がなくなるのはどんな時か、確認してみましょう。
・他社にとられる。
・その仕事の必要がなくなる。
・担当が変わる・辞める。
・取引先が潰れる。
・単価が高いため、発注しづらくなる。
・スキル的に追いつかなくなる・持ってるスキルに需要がなくなる。
あたりが想定できると思います。

地味に痛いのが、「他社にとられる」で、また「その仕事の必要がなくなる」のも、こればかりはどうしようもないでしょう。
「担当が変わる・辞める」のもわりとあって、よくも悪くも「人脈」を感じる所です。新しい担当者が引き続き仕事を発注してくれればいいのですが、前の担当者と繋がっている外注先を嫌う人もおり、そこで切れる場合も多々あります。そりゃあ新担当としては、心機一転やりたいでしょう。逆に、担当が辞めて他社に入ってもお仕事を頂ける場合もあり、大変有難い限りです。「信頼」の大事さを痛感します。

「取引先が潰れる」のは最悪取りっぱぐれるので、一番リスクとしてはデカいです。一社だけに頼らず、複数の収入源を持つのは、フリーランスの生存戦略として鉄の掟といえるでしょう。

結局一番問題なので、「スキル的に追いつかなくなる・持ってるスキルに需要がなくなる」ことです。
会社員でも、能力が足りなければ、居場所がなくなっていくのは当然でしょうが、フリーランスならなおさらでしょう。。。しかも、フリーランスには「窓際」なんてなく、直結して仕事減っていきます。「単価が高いため、発注しづらくなる」ことがないよう、高くても納得してもらえるだけのスキルを身につけるのが、一番解決しやすいのではないでしょうか。
そしてスキルの向上だけが、自分でなんとか出来る部分でもあります。

時代と人脈の波を掴む

本書を僕なりにまとめると、「時代と人脈の波を掴んで、特化した専門性で40代の壁を乗り越えろ」ということになるかと思います。

年齢ばかりは詐称する以外、下げるわけにはいきません(笑)。年齢が上がると、発注側の担当者が自分より年下になるので、担当者がやりづらくなるというのはどんな優秀なフリーランスでも避けられない問題です。

ただ、竹熊氏が多摩美の講師を経て才能のある若手を見つけて『電脳マヴォ』を運営しているように、優秀な若手を見つけて彼等の力を得たり、表舞台に引っ張り出すことで、自分自身も利益を得るという仕組を作りやすくなるメリットもあります。言い換えれば、「年齢に応じた人脈の構築の仕方」を覚えていくのが大事です。
僕のまわりのweb系フリーランスの方でも、講師をやっている方が多くいます。生徒さんが卒業後、講師の方に発注するかというと微妙な気もしますが、直接は無理でも別の担当者を通じてこの人なら信頼できると発注してもらえることはなくもないと思います。フリーランスと言うより経営者になって、優秀な若手を雇っていくのも手です。
単純に発注側としても、講師をやってるとなると、信頼度も増すでしょう。

SNSやブログで自分の存在を知らしめる

人脈の築き方としては、

私の健在がアピールできたことで、減ったいたライター仕事が、少しずつ増え始めたのです。こうした経験から思うことは、仕事がない、というフリーランサーは、とりあえずネットで自分の「存在」を発表しつづけることです。(126p)

とあるように、ネットでの自分の立ち位置を構築するのは、非常に重要です。発注側からすれば、Twitterやブログで人となりやスキルがわかった方が、安心して発注できます。というか、今の時代、フリーランサーはネット(SNS)を使いこなしてナンボだと思います。

竹熊氏の場合は、2004年に44歳でブログを始めたのですが、『さるマン愛蔵版』を復刻するにあたって、ブログでの告知やキャペーンが功を奏して、上下巻で3200円と高額だったにもかかわらず、「一ヶ月で初版計1万8000部は売り切れ、増版がかか」りました。
僕自身も、このブログ経由でライターのお仕事を頂いたり、Twitterのフォロワーさんからお仕事を頂いています。

竹熊氏は借金や離婚、脳梗塞による生命の危機や適応障害など人生の修羅場をくぐっている一方で、独立したこと自体もそうですが、ブログの開設や教授になるなど、時代の読み方がうまいのだと感じました。
特化したスキルだけでサバイブできればそれに越したことはありませんが、時代に合わせて、そのスキルを活かして本業以外の講師などといった形で展開をできた方が、フリーランスの生存確率はあがるでしょう。

「フリーランスはどうやって仕事をとってくるの?」と相談されることがたまにあるのですが、都度「Twitterやブログを活用しよう」と言っています。Twitterやブログでアウトプットして、自分のスキルや興味を知ってもらう、実績を流す、セミナーやイベントを主催する。Twitterでそれをネタに業界の人と話をして仲良くなる。
初めて発注する場合、発注者はフリーランスだろうが会社だろうが、当然「この人(会社)で大丈夫だろうか」と不安なわけです。自分がどんな人で、何ができるのかを知ってもらっていれば、安心して発注してもらえます。まず発注先として選ばれる。そのためには知ってもらう。そこからです。

もちろん特化した技術があればそれに越したことはないのですが、「業界で一番」にはなれなくても「発注者が5社くらい選ぶ中での一番」になれれば、それで仕事になります。「人脈」という言葉はあまり好きではないのですが、今の時代、漠然と名刺を配るよりも、ネットでの広報活動が巧いフリーランスの方が、サバイブしていけるのではないでしょうか。

健康が一番

最も大事なことを忘れてました。スキルよりも大事なことです。本書でもたびたび触れられていますが、心身ともに健康なのが重要です。「自営業は自衛業」といいますが、契約的な面での自衛もですが、健康面でも自衛が大事。体が資本です。よくまだ若いのにマンガ家さんが亡くなってるのを目にしますけど、死んだら乗り越えられる壁も乗り越えようがないですからね。。。

 

気になった箇所

以下、気になった箇所をピックアップ。ピンと来た方は、一読をお勧めします。

仕事・専門性

・『フリーにとっての40代は、自分との「マンネリズム」との戦いだと言えるかも知れません。』(56p)
・『ひとつのパターンの仕事をえんえんと続けることができる「職人タイプ」と、つねに新しいテーマや手法を開拓しようとする「芸術家タイプ」です。』(56p)
・『40歳を越えたフリーライターが生き延びる道は限られています。過去によほど大ベストセラーをもつか、あるい余人をもって代えがたい専門分野を持ってその道の「先生」になるかしかありません。』(p90)
・『私と同世代のフリーランスで、大学に救われた、という人は少なくありません。四十代、五十代になって仕事が激減し、妻子とローンの返済を抱えて途方に暮れているフリーランスは多いので、ここ十年で増えてきた、大学のサブカル系学科やコースに教員として招聘されることが救いの神になっているのです。」(140p)
・『「いまになって思うんですが、僕がうまくいったのは、実写で働いていた頃は誰かのルールの下で働くフリーランスだったのに対し、FLASHアニメ以降は自分でビジネスモデルを作るフリーランスになったということなのでしょう。」』(FROGMANインタビュー・215p)

若手問題

・『最大の問題は、僕はプログラミングができないことでした。ところが、新たに入社してくる若い社員はシナリオとプログラムの両方が書けるんですよ。それを観て、初めて自分はロートル社員なのか、と感じたんです。』(とみさわインタビュー・88p)
・フリーランスとしての30代から40代前半って、一番脂がのっている時期で、出来る仕事も増えてくるし、フットワークも軽い。ただ制作部の50代、60代の先輩をみていると、年にひとつかふたつくらいしか仕事がなく、アルバイトする人も多かったんです。監督の方が年下になってくると、仕事も振られにくくなるんですよね。(FROGMANインタビュー・203p)

お金

・脳梗塞で倒れたとき、私には武富士・アコム・プロミス・ほのぼのレイクの4社からの借金がありました。各50万ずつですから、200万。いや、クレジットのキャッシング(利息19パーセント)も合わせると、5社で250万です。付きの利息の支払いだけで数十万円になっていました。(69p)
・私の場合病気が病気だっただけに、保険がフルに認められて、入院費用と手術代すべてを支払ってもなお、150万近い現金が残りました。これでサラ金4社のうち、3社が完済できたのです。(70p)
・「自分がひそかに憧れていた古書店を開業することができたのは、亡くなった奥さんが生命保険を遺してくれたからだ」(とみさわインタビュー・p93)

結婚

・『だいたい妻子を抱えると、みなさん意に沿わない方向に行ってしまうものなのです。「妻子を養う」という崇高な使命は、「好きなことをやって生きる」ことの、ほとんど対極にあります。』(235p)
・『フリーランスのまま妻子養うことが可能な人間は、非常に才能に恵まれているか、運が良いか、経営スキルをもっているかですが、ふつうはフリーランスを辞めて安定した企業の被雇用者になる方が正しいでしょう。フリーを長く続けるコツは、妻子を持たないことかも知れません。』(236p)
「妻や子どもがいたら、やりたいことだけやるとか言ってられないことだってあると思います。でも一番大切なことはブレないこと。好きなことだけをやり続けることだと思います。ぶれて”なんでもやります”と言うから、長期的には仕事が来なくなる。人と同じ事をやっていたら若いライターの方が安いのだから、そちらが勝ちますよ。
そうじゃなくて、この領域なら”この人には絶対かなわない”という強みを持つことが大事です。そうなれば年なんて関係なく仕事が来ると思います。」(都築インタビュー・237p)

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